量子コンピュータが登場すると色々世界が変わるというけど、一体何が変わるの?
私の仕事の業界も影響が出るんでしょうか?
以上のような疑問にお答えします。
確かに量子コンピュータの応用分野は断片的に聞いたことはあるものの、具体的にどんな業界でどんなユースケースが考えられているのかを知る機会は少ないですよね。
この記事では私が10以上のレポートを読んでまとめた量子コンピュータの応用領域や応用先の業界におけるユースケースについて紹介します。
(弊社の量子戦略とは一切関係なく、あくまで個人の一意見である点ご注意ください)
量子コンピュータの活躍が期待されている3つの領域
量子コンピュータの活用の仕方は世界中で日々考えられていますが、現状では次の3つの領域で大きな効果が期待されています。
シミュレーション
シミュレーションの領域では、化学物質の振る舞いを決定する電子の振る舞いを計算することが求められています。
電子は量子力学に従って振る舞うため、従来のコンピュータでは様々な近似を駆使して膨大な計算の下、電子の振る舞いを計算していました。
しかし、同じ量子力学に従う量子コンピュータを使えば、電子の振る舞いも自然かつ効率的に計算出来るのではないかと期待されています。
最適化
最適化の領域では、古典コンピュータでは計算しきれないほど大量の組み合わせから最適な解の探索が求められています。
ネットワークや業務プロセスといった現実には複雑すぎてこれまで計算を諦めていた分野に対して答えを提示出来るのではないかと期待されています。
AI
AIの領域では、AIの学習に膨大なデータと計算量を必要とするため効率的な処理が求められています。
量子コンピュータは少ない量子ビットで大量のデータを表現して計算可能なため、この特性を活用すれば大幅に高速化が可能ではないかと期待されています。
業界別のユースケース例
では以上の3領域において、量子コンピュータが各業界においてどのように活用されようとしているのかについていくつかご紹介していきます。
金融業界
金融業界の各領域における量子コンピュータの活用の一例は以下のとおりです。
例として金融商品のリスク分析について紹介します。
金融機関では何が起こるかわからない現実世界における投資リスクの分析を、モンテカルロシミュレーションという不確実性を乱数を使って表現する手法によってシミュレーションしています。
莫大な金額を動かす金融機関では、少しでも運用成績を上げるためにシミュレーションの精度をよりあげることは大きな関心事です。
しかし、精密なシミュレーションにはより精密な乱数が求めらる結果、計算量が膨大となり現実的な時間では計算できないという課題がありました。
そこで量子アルゴリズムの適用により計算を高速化することで、より短時間で、理想的にはリアルタイムでリスク分析を可能にして運用成績を向上させることが期待されています。
このケースについては現在すでに実証実験も行われており、結果が現れ始めている状況です。
製造業界
製造業界の各領域における量子コンピュータの活用の一例は以下のとおりです。
例として化学物質の構造解析による新材料の探索について紹介します。
製造業界ではより高機能な素材の探索が日々行われています。自然界には工場ではまだ生成することが出来ていない、非常に優れた特性を持った素材が存在するため改善の余地は十分にあるからです。
クモの糸がいい例で、鉄鋼よりも重量比強度の強い素材が、加熱炉など使わずともクモの体内の中で生み出されています。
しかし、現在の古典コンピュータでは中規模程度の分子のモデリングですら、途方も無い情報量が必要となるため高い精度では困難です。(例えばペニシリンのエネルギー状態の表現には$10^68$バイト必要)
量子コンピュータによるモデリング性能の向上によって、今より優れた材料をより地球に優しい方法で生み出せるかもしれないのです。
医療業界
医療業界の各領域における量子コンピュータの活用の一例は以下のとおりです。
例として個別化医療について紹介します。
個別化医療とは病気の予防や治療を個人に合わせて調整する仕組みのことです。
驚くことに医学的な治療による健康への寄与は10~20%程度で、残りの80~90%は個人の生活習慣や経済的・環境的な要因だと言われています。
そのため、既存の治療の多くは個人差が原因で期待した効果が得られていない、場合によっては逆効果となっていることが課題とされています。
現状でも個人レベルでの疾病リスクを評価するために、AIをつかった様々な要素を考慮したグルーピングの取り組みもされていますが、まだまだ複雑に絡み合う要素を紐付くには至っていないようです。
量子コンピュータの利用により正確かつ詳細な予測を可能にすることで、各個人ごとに合った医療を受けることを可能にする一つのステップになると期待されています。
(当然個別医療の体制の整備など技術で解決できない部分もたくさんあるとは思いますが。)
物流業界
物流業界の各領域における量子コンピュータの活用の一例は以下のとおりです。
例として航空業界におけるネットワーク最適化について紹介します。
航空業界の中心業務の一つとして飛行機体や乗務員の割り当てなどのネットワーク計画があります。
ネットワーク計画はオペレーションコストに直結するため大きな関心事ですが、現実にはあまりにも多くの都合(変数)を考慮する必要があり、古典コンピュータでは最適な解を見つけることは出来ません。
そのため、乗務員のスケジュールなど本来考慮すべき一部の都合は無視されてネットワークが計画されてしまう事が起きています。
量子コンピュータによるネットワークの全体最適化によって、最適なネットワークがリアルタイムで把握可能となり、より質の高いサービスの創出につなげることが出来るのではないかと期待されています。
まとめ
この記事では量子コンピュータの活用が期待されている3つの領域について、各業界ごとのユースケース例を紹介しました。
まとめると、一つのユースケースの考え方は様々な業界で適用できそうだというのがわかると思います。
例えば個別化医療の考え方は小売り業界ではおすすめ商品のレコメンデーションに応用できそうですよね。
ここで挙げた業界やユースケースはあくまで一例で、実際に量子コンピュータが世の中に登場したら、AIが登場したときがそうであったように、本当に多種多様な場面で効果をもたらしてくれるはずです。
量子の時代が来たときに量子コンピュータってなんだ?とならないようにするためにも今のうちに最低限の教養は身につけておきましょう!
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